代表取締役 湯川 剛

「私共はこのようなおもちゃのような製品は作りません」
「おもちゃ?」私の顔色は変わりました。何がおもちゃなのかと食って掛かりました。
話を聞けば、日本理工は医療向けの治療器をはじめ、家庭用治療器においても実績があり、大学等との産学共同の研究開発も行なっているとの事でした。当時も剣先イカの神経に低周波を当てる等の研究開発をしていた話を
よく聞きました。いずれにしろ、日本一を目指している私にとって、相応しい生産環境だと思いましたが、それにしてもおもちゃ扱いには頭に来ました。「おもちゃ」という所以は、電池を電源に携帯で持ち歩きする低周波治療器など専門メーカーから言わせれば、そう見えたのでしょう。しかし私から見れば今までの治療器こそ、一般的に普及していない理由がそこにあったのです。以前にも言いましたが、私は「スポーツの後に、レジャーの後に、ビジネスの後に、手軽に使う」がコンセプトでした。

結局その日は丁寧に断られました。「わざわざ大阪から長崎・佐世保に来て頂いて申し訳ありませんが、私共としてはこのような製品は作る気持ちがありません。よってどこか他を探して下さい。」との事でした。それでも私は諦める気になれず「明日また来ます。」と言って博多に宿をとりました。翌日も阿比留社長は会ってくれましたが、同じ話の繰り返しでした。「業界日本一になるに相応しい工場を探している。年間10万台は売って見せる」と言いましたが、この言葉が逆に阿比留社長の不信を買ったそうです。私は知らなかったのですが、低周波治療器業界はこの数年前から販売も生産も下降気味で、3万台を売れば日本一になれる程のものだったらしいのです。そんな業界事情等も全く知らず、いきなり大阪からやってきた男が「日本一になるから作ってくれ」と言ったところで、信じて貰える筈がないのです。
後日、阿比留社長は「100%不審な男だった」と大笑いしながら話してくれましたが、その時は断りたくて断りたくて仕方がなかったとの事でした。私は「もう一度出直してきます」と言って帰りましたが、博多佐世保線の電車の中で「ここしかない」という強い気持ちと「やっぱり実績を上げてから現在の委託生産をしているところに設備の充実を西山社長にお願いしなくてはいけないのかな」と気持ちが交差していました。

その後、5月に再度訪問しましたが、「熱心な気持ちはよく理解していますが、同じ事です」と言われ、3月と合わせて2回も訪問しているにも関わらず、状況が変わらないのだから無理だろうと半ば諦めの気持ちを抱え、宿泊先の博多のホテルに戻るとカウンターで「メッセージが入っています」と告げられました。相手先は「日本理工医学研究所、阿比留忠徳」でした。

(次回に続く)

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