代表取締役 湯川 剛

13年12月25日。世間では一般的にこの日を「クリスマス」というが、自分の気持ちは「苦しみマス」かなど、前日の日記に書いてあります。渋谷にあるA社を訪ねる前にIGF社のT社長と腹ごしらえにうどん屋に入り、私はカレーうどんを注文しました。

約束の13時よりかなり早くA社に到着しました。A社は、私が知るどの会社よりも広くて華やかなロビーでした。さぞかし働いている社員さん達も誇らしい事でしょう。
といって私ならいくら予算があってもたぶんこのようなロビーは作らないと思います。
さて早めに着いた事を受付に伝え、時間前に面談が可能になりました。
数日前に「協賛金は了解」といった手前、相手も気を使ってくれているのでしょうか。
僅か5日前の20日に訪問した際に「了解」と回答を貰った同じ部屋に案内されました。

いつもの幹部と若い社員が部屋に入ってきました。
心なしか「ドタキャン」に申し訳なさそうな素振りでしたが、本人達には責任はありません。今更、協賛金の話をぶり返したところで「OK」が出る筈がありません。私は「協賛を頂けない事は残念です。本日はその為の話で来たわけではありません」と、空席を防ぐ為に協賛金に関係なく是非観戦して頂きたい!というつもりでした。A・B2社合わせて発生しかねない500席の空席を何とか埋めなくてはならないのです。

ところが何とした事か、私が発した言葉は「本日はチケットを買い取って頂きたく訪問しました」というものでした。隣にいたT社長は突然の思いもかけない私の言葉に、きょとんとした表情で私の方に顔を向けました。
「この大会を開催する為に多額の費用を掛けているのはご存知ですね。広告用トラックにはA社の名前も掲載されていて東京都内を走っています。それだけにせめて招待者用に準備した席のチケットを買い取って欲しい」と伝えると、その言葉に相手も少し納得した風だったので「チケット代金は定価でお願いします。せめてそれくらいはして下さい」と言葉を続けました。すると幹部社員は「総額で幾らくらいになりますか」と質問しました。
ここで詳しく金額を掲載する事は出来ませんが、参考までにIGFのリングサイドは1席5万円。業界においてはトップクラスです。つまり数百万単位の金額になります。

私は具体的な金額を提示しました。ドタキャンにおいてはこれくらいの金額を負担してもらわなきゃいけない訳です。「湯川会長、分かりました」と理解して貰い、幹部社員は前回と同じように「会社に確認する」と言って部屋を出ようとしました。
そこで私は「●●さん、この部屋で電話して確認を取って下さい」とお願いしました。
幹部は自分の座っている椅子を180度回し、後ろ向きでうつむき加減で電話をしていました。何度か頭を下げて「分かりました」と言って電話を切りました。そして席を元へ戻し、「それでは定価で今預かっている分は買い取らせて頂きます」と言ってくれました。
そこで私は「大変お世話になりました。ありがとうございます。ところで預けてあるチケットは招待券なので実際のチケットを引き替えなくてはなりません」と言って、チケット買取りのお礼と招待券とチケットの交換業務の話をしながら「先程の電話は会長ですか」と尋ねました。そうだという事を確認した上で私は次のような事を言いました。

「長年アントニオ猪木に支援をして頂いて感謝しています。今回の事は残念ですが、しかしながら1度は協賛をして頂く話になりました。私は1度も会長とはお目にかかっていません。改めて日頃のお礼を申し上げたいのですが、その前に最後の最後、もう1度協賛金のお願いが出来ないでしょうか。そうすれば招待券もそのままで複雑な手続きも要りません。原因はアントニオ猪木のスキャンダルとなっていますが、私から考えれば、それほど大きな影響を与えるとは思っていません。そういう問題も含めてアントニオ猪木というキャラクターは成り立っているのではないでしょうか。長年支援をされて会長も分かっておられると思います。●●さん、もう1度電話をして下さい。私はいつでもお願いに行きます。頭を下げろというなら下げます」と伝えました。幹部の方も私の気持ちを分かって頂いた感じでした。

「分かりました、会長へ電話します」と幹部は先程と同じように後ろ向きになり、数分程やり取りした後、最後に「はい、分かりました」と電話を切ってこちらに向き直りました。
先ほどまでの表情と全く違い、明るくにこやかな顔でした。
「OKです」という回答を貰い、私は内心「よし!」と拳を掲げガッツポーズをしたい心境でしたが、そんな感情を悟られないよう何もなかったような顔で「ありがとうございます。会長にはいつでもお礼に行きます」と謝意を伝えると「湯川会長1つ条件があります」と告げられました。

「協賛をするにあたり、条件を1つ、クリアして下さい」
私は協賛して頂けるなら何でも聞こう、大きな借財を背負う事を思えばどのような条件も受け入れようと思いました。だから私は「了解しました」という雰囲気を醸し出しながらどういう条件かを確認しました。
「会長は、猪木会長が自ら協賛金の依頼をするならOKを出すと言っています」

「えっ? アントニオ猪木が会長に協賛金のお願いをしろという事ですか?」
「はい、そうです」

協賛金が入れば、年末恒例イベントは問題なく開催できる。
A社が協賛すればB社も協賛金を了承して貰える。
しかし、これがなければIGFは多額な借金を背負う事になる。

私は数秒さえも考える暇なく、即答しました。
「それはお断りします。アントニオ猪木はスーパースターです。セールスマンではありません。また私がここにきている意味がありません。もしそれが条件ならそれは無理です。残念ですが、この協賛金の話はなかった事にします」
その上で「アントニオ猪木がお礼の電話を会長にする事は出来ます」と付け加えました。

3時間後、私はB社の社長室にいました。「A社より協賛頂けると回答頂きました」

6日後、私は両国国技館にいました。多くの観客。リングの中で戦っている選手達。会場に響く音響。色鮮やかなスポットライト。お馴染みの「イノキボンバイエー♪」が流れます。会場全体がイノキ・イノキ・イノキの大コールです。千両役者アントニオ猪木が登場します。「猪木劇場」の始まりです。元気ですか~! 会場は一体となって、オー!

改めてA社の会長に感謝したいと思いました。勿論B社に対してもです。

「絶対に諦めない」という体験談が2013年大晦日に、また1つ増えました。 改めて「人生はプラス思考で歩きましょう!」

 

(次回に続く)

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