代表取締役 湯川 剛

第354回から第357回まで37年の社長時代を4回に分けて振り返りました。
番外編として書かせて下さい。
振り返ると37年間、厳しい事8割、それを乗り越えた晴れの日2割でやってきた気がします。
厳しい状況を「ピンチはチャンスの芽」として捉えている私にとって、言い替えるとそれはチャンス8割、晴れの日2割という感じです。
5坪から始めたこの会社を何とか大きくしたいと、当時は毎日のように自己啓発本やサクセスストーリーの本を読み漁っていました。私の本棚には2000冊を下らない書籍があります。
小説は別として、60歳を越えてから読む本の内容が変わり、若い時のような「どのようにしたら経営が上手く出来るのか」的な本は一切読まなくなりました。
その反面「どうしたら失敗するのか」といった本に目が行きがちです。ここ10年、有名企業や大手企業の崩壊を扱った本をよく読みます。崩壊の原因として市場の読み間違いなどがありますが、私から言えば結局のところ「人間」が原因です。社外的問題より社内的問題が引き起こしているように感じます。つまり外的要因ではなく、内的要因です。

私の好きな話があります。
失敗に良い失敗も悪い失敗もなく、問題は失敗した後の対応が重要だと感じさせられる話です。

戦国時代の一時代を築いた武将として織田信長や豊臣秀吉、それに徳川家康が挙げられますが、この三人の中で家康が一番多く負け戦を経験しています。
馬上に身を伏せて命からがら逃げ延びたという事が彼の生涯には何度もありましたが、その中でも有名なのが武田信玄と戦った三方原の戦いです。
ご存知の方もいると思いますが言い伝えによると、この時の家康は恐ろしさの余りに敗走する馬の首にしがみつき、鞍壷で便をもらしたという如何にもありそうな話です。
家康はこの三方原の戦いで武田軍に歴史的な敗北を喫しました。
負けそうになった事は何度かあったらしいですが、完敗したのは家康の生涯で三方原の戦いだけだと言われています。
家康の素晴らしいところは、そのような教訓から何よりもまず武田軍から様々な戦術を学び、それをその後の戦に活用したという事です。
また敗北した時の自分の姿を絵師に描かせ、それを終生、手放さなかったとの事。
家康の顔は〝たぬき親父〟と言われるような風貌で肥満顔のイメージですが、この時に描かれた家康の顔は、頬が落ち、目は生気がなく窪んでいて実に哀れな老人のような姿です。
『顰像』(しかみぞう)とも呼ばれているこの絵を目の前に置き続けた事が、家康が天下人になれた秘訣かもしれません。

私もここまでの事はしませんが「失敗は最大の教訓」としていつも忘れないようにしています。私の机の前に色褪せた紙切れが貼ってあります。会社設立当時に書いたもので、父親の倒産から得た教訓です。記憶は定かではありませんが、何か書物から得た文言だろうと思います。
「倒産の道 市場を超えた事業拡大 指導力を超えた組織拡大 資金計画を超えた投資拡大 経営のバランスを崩すな」
最近ではOSGに関するネガティブな記事を拡大コピーして、同じく机の前に貼ってあります。失敗から目をそらさない。失敗から逃げる事をしないのがトップの宿命です。
そうしなければトップを努める事は出来ないと思います。
37年間、社長業をしていて、気が休まった事は一度もありません。

ある本の一節に以下のような文章がありました。
「会社がある以上、誰かが社長をしなければならない。社長次第で会社は天と地の違いを作ってしまう。会社の全てが社長によって良くもなれば、悪くもなる。社長は聖域である。社長になった途端、パーソナルライフはなくなる。みんなが社長を見ている。みんなが自分は何をしていいのか、社長の一挙手一投足に注目している。社長の息遣いを部下は息を殺し、目を凝らして伺っている。その緊張感に真から休みが来る事等ない。」

37年で社長業は終わりましたが、経営の責任はまだ終わっていません。
私が会長となり、新社長と二人三脚で今後もこのOSGを邁進させていく訳です。
グローバル化のOSGはどうなるのか。その代表格としての中国事業はどうなっていくのか。
事業領域の拡大として、その代表格である水宅配事業は今後どうなっていくのか。
また水宅配事業から更に新しい事業への挑戦と課題と市場は無限にあります。

社長業は卒業しましたが、未来ビジネスを担当する代表取締役会長としてはまだまだ休息のない企業戦士です。

追記

テレビの特番で放映される「はじめてのおつかい」を見る度、いつも感涙してしまいます。
勿論、悲しみの涙ではありません。では何の涙なのか、いつも不思議に思います。
はじめてのおつかいに行かせる親への感情移入でしょうか。それともはじめてのおつかいに挑む純粋な幼児の姿でしょうか。とにかく泣いてしまうのです。そして応援している自分がいます。お店の中のやり取りや、お店に向かう道すがらのやり取り。でも必ず帰ってくるのです。こうして子供が成長していく姿にかつての幼かった自分を投影し、応援しているのだと思います。

全く違った例えですが、テレビを見ながらふと思いました。
「新社長や執行部もこれからはじめての経営に対する数々の試練を受けるのだな」と。
かつて未熟な経営者であった自分に置き換えているのかもしれません。


(次回に続く)

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