代表取締役 湯川 剛

C社製品を大々的に販売しようという大きな契約が、東大阪の酒販店店主が10人程集まっての会合で決まりました。そこで私はその実績を持って、京都・山科にあるC社社長宅を訪問しました。

「社長、テレビコマーシャルをしたいのですが、協力してくれませんか」

Y社長の前に正座し、私がそう提案した事に、Y社長は殊のほかびっくりされました。

「我社のC製品をコマーシャルすると言うのか・・・」
「そうです」

Y社長も雑菌問題で売上は激減し、倉庫には在庫が山積みの状態。それだけに、まさか自社の製品がCMに出るなど、非現実的な話であり26歳の私の発想に、最初はついていけなかった感でした。一方の私にとってみればこの企画を大成功させ、その実績を持って酒販店業界を攻略したい、何としても成功させたいという一心でした。
「湯川君も知っての通り、売上が激減し代理店の殆ども辞めてしまい、資金援助をする余裕など無い。」
正直、私はY社長に資金の協力をお願いしようとは思っていませんでした。

「資金援助など要りません。社長、在庫の一部を物品支給して下さい。10台に10台は無料で頂きたいのです。」

こんなムチャな提案を、Y社長はいとも簡単に了解してくれました。
後から聞いた話ですが、山積する在庫の倉庫代が助かる方がプラスだと判断したらしいです。

しかしこれはテレビCMが条件です。自社製品がテレビCMに載る事は、Y社長にとっても大変な喜びだったようです。私は早速、テレビCMの製作にかかりました。と言えばカッコいいですが、コマーシャルフィルムを製作する費用などありません。何か名案はないか・・・。
当時、印刷物は兄の紹介でA印刷に依頼していましたが、そのA印刷の社長には5歳になるお嬢ちゃんがいました。まさに目の中に入れても痛くない位のご自慢の娘さんで、社長は時々写真を見せてくれました。

「A印刷のお嬢ちゃんをCMに起用しよう!」

A社長へその話を持ちかけた時の驚き様ときたら・・・。
出演料は当然なし。印刷業なので撮影はA社長にお願いし、お願いついでに制作費はA社長持ちで、交渉しました。無茶苦茶だと思えるこんな提案をA社長は喜んで引き受けてくれました。

実のところ、コマーシャルフィルムといってもスライドで画像は動かない訳です。自慢の可愛いお嬢ちゃんがコップを持っているシーンがワンカットだけ。その画像に「C△☆※〜!」と商品名が流れるわずか5秒のコマーシャル。当時は5秒枠のスポットCMがあったのです。

毎日放送、朝7時、「宮川○○の経済ニュース」が始まる前に流れるわずか5秒のスポットCM。私とY社長とA社長は、固唾を呑んでテレビの前で待機していたのです。

「社長、見ましたか!」
「見た、見た!」
「アッという間やなぁ」(笑)

テレビコマーシャルは酒販店の店主に何の効果もありませんでしたが、我社に利益をもたらしてくれた事に大きな効果はありました。私のムチャな提案に商品を提供してくれたY社長もテレビCM制作に協力してくれたA社長も、この企画には心から喜んでくれました。特にY社長は「もし湯川君と出会わなければ、製品も生きなかったと思う」という言葉が、この次の展開に大きな影響をもたらすのでした。

(次回に続く)

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