代表取締役 湯川 剛

カリスマファンドマネージャーと呼ばれ、著書も多数出し、テレビ・新聞等にも登場する藤本塾長(私が勝手にそう呼んでいる)が、その企業の実績だけを重視するのではなく「人」に着目して判断すると以前、話されているのを聞き感銘を受けたものですが、それだけに粟山氏に同調された事は多少ショックを受けました。私との別れ際に彼は「粟山氏を信じていない」とコメントされ「ならばどうして」との複雑な気持ちはありましたが、彼らにもいろいろと事情があるのだろうと気持ちを切り替えて新たなWN(ウォーターネットの略)の道を歩みました。

中国進出の時も今まで新しいものに挑戦した時も、そして今回の水宅配事業進出にも必ずいろいろな障害がやってくると覚悟して挑んでいました。その障害が外的要因であれ、内的要因であれ、立ちはだかる大きな壁に出会った時、「乗り越えた時の事を想像し」まずは第一歩を踏み出す事を心がけていました。この時の第一歩は積極的なWN加盟店説明会の開催です。
スター的経営陣が存在していた時から比べれば説明会の参加率は多少の影響はありましたが、それだけに来て頂いた参加者の方々には更なる感謝の気持ちで挑みました。

問題は、石塚氏や粟山氏が在籍していた時に既に加盟店説明会に参加された方々です。
「どうして彼が抜けたのですか」の問い合わせがあり、内部事情に対して詳しい説明も出来ず、あとは参加者の方々の判断に任せるしかありませんでした。
やはり後遺症はありました。代表的なのが九州エリアのある加盟店有力企業S社の話です。
企業規模も知名度も九州エリアではトップクラスで、この企業がWNの加盟店になれば今後の加盟店募集においても大きな影響を与えるものでした。私達の「単に水宅配事業に参入するのではなくFACE to FACE、すなわちお客様とのやり取りを行ないながら本業にも活かす」という考えにも賛同して貰いました。当然の事ながらプラント建設も視野に入れ、将来は九州全域に広げていく構想も持っていました。勿論、プラント候補地もほぼ決まっていました。
その企業の事業責任者から「どうして石塚氏が抜けたのか」と特に石塚氏に対するこだわりがありました。抜けた理由として「ONE WAYとTWO WAYのビジネススタイルの違い、すなわちFACE to FACEのビジネススタイルの違い」の事実を伝えました。

ところが11月7日にS社からWN九州担当の社員さんが突然呼び出され、「我社が水宅配事業を正式にやるかどうかは、11月末に決定する」と告げられました。プラント候補地も視察し、大きな流れは決まっていたにも関わらず一方的な通告でしたが、11月30日の正式回答を待つ事にしました。
11月30日、S社からの回答は「水宅配事業は時期尚早」との事でした。
その日の日記に
「期待していたS社の想定外の結論。無念。気持ちを切り替えよう」と短く書かれています。
S社の加盟店獲得が期待以上に持っていただけに落胆も大きかったのです。

ところが1週間後の12月8日に「S社は粟山氏らがやるONE WAYに参入する」との情報が入りました。

その情報はWN社内に大きな衝撃をもたらし、殆どの者が感情的になるものでした。私は情報を得たその日の日記で心の内を吐き出す事で気持ちを整理し、社員さん達の前では「仕事で負けたのだから仕方がない」と努めて冷静さを装いましたが、内心は社員さん達と一緒に不満をぶつけたい心境でした。

しかしあれ程TWO WAYにこだわっていたのに、どうしてONE WAYに切り替えたのか。その理由は後日判明。
「私がWNに在籍していた時はTWO WAYを勧めましたが、TWO WAYは倉庫が必要です。勿論、配達をしなければなりません。しかしONE WAYは倉庫が要らない。配達も要らない。ましてプラント等の投資も要らない。ただ注文を我社に伝えて頂ければ、宅配便でお客様のところまで製品をお届けします」と粟山氏らが営業を掛けている事が分かりました。

一見ONE WAYスタイルが加盟店にとって楽でしかも便利なシステムのように思われますが、その裏に潜んでいる落とし穴に大企業のS社が取り込まれた事を私達は危惧しました。
しかしそれはそれぞれの企業の判断でしかありません。そもそもFACE to FACEでやる「お客様とのつながり」の基本的考えをS社はどこかで忘れていたのでしょう。

それにしても当面のライバルはアクアCやアタックとの競合でなくなりました。
ライバルは、WNから離れた粟山氏や石塚氏が設立した会社とのいわゆる「ONE WAY VS TWO WAY」との闘いになる訳です。S社の場合、仕事の結果としては負けた訳です。それは仕方のない事で認めなくてはなりません。WN時代に耕した市場を彼らは狙ってくるという現実的な問題に対し、後遺症は当分あるだろうと気持ちを奮い立たせました。

【追記】
後日S社の社員さんから聞いた話しがあります。
当時のTWO WAYからONE WAYへの大きな転換に対して、「便利」なビジネススタイルに切り替えた事も理由になりました、むしろ事業責任者が有名な石塚氏に対する想いが影響したとの事でした。やはりスター経営陣の存在は強かった訳です。

あれから10年以上が経ちました。
「倉庫も要らない。配達も要らない。ただお客様を獲得して頂ければ、後は私達が行なう」
この事を「楽だ」「便利だ」と思うところに問題があると、どうして思わないのでしょうか。
大事なS社のお客様情報を全て第三者に渡している事に、どうして気付かないのでしょうか。
S社はやっとその事に気付いたらしいです。そして憧れの石塚氏は既にその企業から去っているのです。改めて責任者の判断は怖いという事です。


(次回に続く)

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