代表取締役 湯川 剛

06年8月11日夕刻。
「何であの藤本や石塚に気をつかわなきゃならないのか。本来、私達2人がやるべきなのに」粟山社長は岩村産業時代から数えると10年近い付き合いにもなるからか、私には気を許している風で、お気に入りの品川駅前の居酒屋で、いつものようにお新香を肴に焼酎の杯を傾けながら毒づいていました。
「わずか2ヶ月前に藤本塾長や石塚氏の推薦のおかげで社長になった事など、すっかり忘れてしまったようだ」と私は心の中で思っていました。

この居酒屋発言から3週間も経たない8月31日の事。粟山社長は突然、営業会議で「ウォーターネット(略、WN)はONE WAY方式でやるべきだ」と言いだしました。
彼の話によると「兵庫県に本社がある水宅配事業のコスモス社から私に素晴らしいONE WAY方式のサーバーがあるので特別に考慮したい」との事でした。更に驚いた事に「このONE WAY方式のサーバーを使用するには使用権を4億円必要」との事です。
私は「WNは2WAY方式であると決まっている。環境に適したビジネスとしてリターナブル方式を仕事の基本としている。粟山社長自身、WNの社員さん達に2WAYの意義を話したばかりではないか。資金的な問題もありますが、基本方針をそう簡単に変えるものではありません。私の経験ではONE WAY方式はメンテナンスにおいて必ず問題が生じます」と大反対の姿勢を打ち出しました。

会長と社長の意見が真っ向衝突。社員さん達の前で何と見苦しい姿を見せているのかと思いながらも、ここはどのような事があっても阻止しなければならないと思いました。しかし何故、粟山社長は私に事前の相談もなく突然このような事を言い出したのだろうと疑問に思っていると、「既に石塚氏や藤本塾長には賛同を得ている」と更に驚かされました。私は頑として反対の意向を示したところ、17時には私を入れて4人で話す事になっていると告げられました。
既に外堀が埋められている状態である事は明白。こういう事にかけては長けているのが、大企業勤務の経験者です。私は誰が何と言おうとも、この考えには一切応じないつもりでした。
そして石塚氏・藤本塾長が加わり、4人での会議が行なわれました。
「湯川会長、まずは全面否定する前にONE WAY方式についても考えられたらどうですか。目的は売上を如何に上げるかであって、ONE WAY方式や2WAYは手段・方法です」
経営理念を無視した発言がなされました。

私達WNが何故、ONE WAY方式を採用せず2WAY方式を採用する事にしたのか。そこに至るまでには考慮に考慮を重ね、熟慮した結果なのです。結論から言えば、売りっぱなしでメンテナンスを無視したONE WAY方式は必ず問題が生じると考えたからでした。
楽しさを損なわず、消費も萎縮させないままゴミの減量やエネルギー消費の抑制等、環境を大切にする消費生活に移行できるか、03年4月1日に改正容器包装リサイクル法が施行され、年間300億枚強、国民1人あたり300枚も使用しているレジ袋の大半は再生利用されず、環境の重石になっている。これに伴いスーパーイオンではレジ袋1枚5円の代金を徴収。米国発のLOHAS(ロハス=健康と環境を配慮した持続可能なライフスタイル 1990年後半、コロラド州ボルダー発祥)という生活様式が02年9月に日経新聞で紹介されて以来、日本でも注目され始め、こうした循環型社会を背景に我々は2WAY方式を採用した経緯がある訳です。

勿論、資金的にも問題があります。4億円もの大金を何故、使用するだけの権利の為に投入しなければならないのか。この人達は資金繰りを何と思っているのか。
この夜、話は3時間ほど平行線を辿り、そのまま話は終わりました。私は最終の新幹線に飛び乗り、疲れきった身体を座席に投げ出しました。

身動きが取れない程、身も心も完全に疲れた。ゼロから立ち上げたWNが、目に見えない何者かによって動かされようとしている事への苛立ちが、こんなにも私を疲れさせているのか。
それともこの日、OSGが「下方修正」を提出した事が要因になっているのか。
いや中国での衛生部ショックによる大きな打撃が追い討ちを掛けているからか。
でも絶対に負ける事はない。こんな状況は過去に何十回、何百回もあった。必ず乗り切ってみせる。

そう自分の意思に強く言い聞かせました。
でも本当に身体は疲れきっていました。とにかく疲れた。

(次回に続く)

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