代表取締役 湯川 剛

12月18日から、私は九州・四国のウォータネット(WN社)の加盟店への挨拶や加盟店獲得の為の販売会社への訪問に動いていました。この日は羽田から空路にて福岡入り。そして福岡からJR線で佐賀へ移動し、佐賀の加盟店の訪問を終えた後に鹿児島へと移動しました。
翌日、車で迎えに来たWN社の社員さんと鹿児島駅で合流しました。訪問先が10時の約束であった為に、車中でWN社の社員さんと話をする機会がありました。仮にB君としましょう。

12月19日、B君との会話。
「水宅配の仕事は、先発メーカーもあり、後発メーカーの我々が上手くいくのですか」的な内容の話だったと思います。
B君にすれば、五菱ナイロンの三田村役員や岩村産業の粟山さん、カリスマファンドマネージャーの藤本塾長、企業再生支援ビジネスの石塚さんなど華々しい人材で彩られたWN社創業時とは一転、誰一人残っていないという現実があった訳です。社員さんから見れば、いったいどうなっているのか、何があったのかと映ってもやむを得ない話です。
一方、私から見れば、いい加減なサーバーの権利買収の増資話から株の比率変更、〝乗っ取り〟とも思える話や経営方針である環境問題から循環型水宅配、TWO WAY 方式をある日突然、ONE WAY方式に切り替えるなど、経営の根幹を揺るがす経営方針の転換を拒否し結果、彼らと袂を分かつ事態となった事は一般の社員さんから見ればなかなか理解し難い内容であったかもしれません。トップの私が車中という場所柄もあり、いちいち説明するのはどこか言い訳がましいと思ってしまった事も起因したかもしれませんが、彼の発言に正直気色ばんで一瞬、私の顔色が変わる事態になりました。
「WN社は会長のおもちゃですか」
「なに!」と私は胸の中がカッと熱くなりました。
どれ程の思いで新事業領域に挑んでいるか。どれ程、人知れず苦労を重ねているか。そんな思いを露程も知らずに・・・と。しかし、だからと言ってこの空間でここに至る顛末の全てを話す気持ちにはなれませんでした。冷静に社員さんの立場からみれば、そのように写っているのだなと受け止めるだけに留めました。

経営的事情はどうであれ、現場を預かる社員さん側に立てば、コロコロ変化する事態に対応する事の方が大変だったと思います。
「あの石塚さんや粟山さんなどはどうして辞めたのだ」そんな問いかけに直面し、どのように回答していいか分からない事もあったでしょう。テレビでお馴染みのスター経営者石塚さんが登場してのWN社の事業説明会。恐らく石塚さんを見るためにも参加されたお客様も多くいたと思います。ところが、突然分かれた。細かな事情は関係ない訳です。
もっと厳しく言えば、トップならそのような人材を最初から見破れなかったのかとなります。「結果論」と片付けてしまえばいいのであれば、経営者の判断等は不必要です。
B君の「おもちゃ論」に対して、なぜそのような表現をしたのか、一度も確認はしていません。
「おもちゃ」と表現した事を、いろいろ考えてみました。
幼児がおもちゃで無邪気に遊んでいる姿。おもちゃで自分の世界を作り出し、時には手にしたおもちゃを放り投げもする。幼児のおもちゃ遊びに計画等はない。その一時が楽しければいい。
子供は全て自分本位なのだ。そう考えてみると、無計画でその場その場で経営を行なっている自分本位なトップのように見えたのかもしれない。そういう思いに辿り着きました。
「WNは会長のおもちゃですか」の一言は、私を心の底から激情し、しかしながらそれに反発や反論の出来ない何ともいえない狭い車の中でもどかしさを感じた訳です。相手が幹部であれば「何を言っているのだ」と反発したでしょう。
勿論、事情を知っている幹部はそのような事を元々発言しないでしょう。
そんな雰囲気の中、次の訪問先に到着しました。
私は、何事もなかったように「おはようございます」のひと言で気持ちを切り替え、商談に臨みました。

私はその夜、この「WNは会長のおもちゃですか」発言について再考しました。
この発言の内容が「正しいか、間違っているか」は、誰も判断出来ませんが、B君の指摘については「正しい」という結論に至りました。少なくとも「間違っている」とはいえません。
WN社を私のおもちゃのようにしてはいけない。OSGグループの中の優良企業に育てなければならない。その夜強く感じました。

あれから10年が経ちました。B君はどうなったのでしょうか。

10年後の2018年。11月はWN社恒例の優秀加盟店様のハワイ旅行がありました。アテンドとしてWN社の社員さんも行きます。B君は今やWN社のB部長となり、3年前のハワイ行きの際には多くの優秀加盟店様の社長や優秀社員のアテンドとして同行していました。
当時の私はOSGの会長であり、WN社の社長でありました。5年後、私は新社長にバトンタッチし、会長に就任。今では月に1度の役員会議に出席する程度で、新社長中心にB部長らが活動しています。

この「WNは会長のおもちゃですか」の話題は、酒盛りの時に笑いと共に今も健在です。
ひそかにその時の仇討ちをB部長にしています。(笑)

08年も終わろうとしています。
08年は100年に1度の世界の危機と呼ばれ、世界同時不況と呼ばれた時代です。何と言っても08年はこれに尽きます。しかし世界が不景気であろうが、世界同時不況だろうが、経営をするものには言い訳できない要求をされます。
アメリカで史上初の黒人系大統領が誕生したのもこの年でした。
また東京・秋葉原の歩行者天国で無差別殺傷事件が発生したり、毒物入りの中国製冷凍ギョウザと当時の事を思い出します。

「平穏無事な1年」で終わるような1年など1970年設立以来、私自身も皆無です。

いつも5歩前進2歩後退でやってきたような感じで、時には1歩前進2歩後退の年もありました。苦あれば楽あり、楽あれば苦ありのサイクルでしたが、今日まで続いた事だけは事実として残っている訳です。
そういう意味では08年は前進した年なのか、後退したのかは分かりませんが、夏の終わり頃から中国ビジネスにおいては中国国家体育局訓練局にOSG製品が導入されました。
水宅配ビジネスにおいては、まさかの伊藤忠商事系JF社との出会いがありました。

09年の新しい年はそのような希望を与えてくれる材料があると思いつつ迎えました。
「終わり良ければ全て良し」の都合の良い言葉で08年も締めくくろうとしていました。

(次回に続く)

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