代表取締役 湯川 剛

2004年11月30日。中国、広州に出張していた私は関西空港19時30分着の便で帰国し、迎えの車に乗り込むや否や、証券会社のM&A担当者に電話をかけました。
「11月29日の結果は?」
「残念ながらOSGは第1次でダメでした」
「妥当な金額を提示したつもりだが、何とかなりませんかね」
M&A担当者に何か手立てがないかを求めてみましたが、もう既に結果が出てしまっている事だからとの回答でした。
今回の入札には約30社が参加し、第1次通過は6社。最終審査の結果は12月17日に出されるとの事でした。
勿論、ここで簡単に引き下がるようでは、私のビジネス信条に反します。
「第1次の結果がNGだった事は分かりました。今日は遅いので明日改めて連絡します」と告げ、電話を切りました。私は「さて第2弾だ」と次の手に向けて思考を切替える事にしました。

翌12月1日、M&A担当者S氏が早速、OSG本社にやってきました。
「何とかならんのか会議」に参加する為です。あの手この手と午前中いっぱい検討を重ね、「何とかならんのか会議」を終えた午後、S氏は東京に帰りました。

ところが、その日の深夜にS氏から電話が入りました。私と別れて約10時間後の12時過ぎの事です。
「湯川社長、Aジャパン社管財人とアドバイザー契約をしているH代表が、面談を希望されています。大阪に行ってもいいとの事です」との内容です。何かが動き出したのです。
私は明日の16時なら時間が空けられると応えると、折り返し連絡すると電話を切り、なんと午前2時頃に「代表が明日、大阪に行きます。私も同行します」とS氏から電話がありました。
仕事をする男にとって時間は関係ないのだなと感心させられました。

翌日12月2日の夕方、S氏とH代表が来社。H代表の話は私が予測していた話とは全く違った内容のAジャパン社案件でした。
「Aジャパン社の民事再生に対する第1次通過は約6社ですが最終結果はまだ出ていません。水宅配事業は、食品として安心や安全が確保されなくてはなりません。単に提示金額だけで決められるものではありません。それに今までの経験から第1次審査を通過した企業でも、最終的に合意に至らない場合もあり得ます。そこでOSGさんの考えを伺いたい。先の入札でNGになった現在でもOSGさんはAジャパン社に関心がありますか」
「もしあるならば」といって、4つの選択肢を示されました。
①やるならOSG単独でやる
②他社と組んでも構わない
③今回の入札案件以外でも水宅配ビジネスはやる
④OSGは第1次を通過しなかったので、水宅配ビジネスはやらない

諦めていた話なのに文字通り「何とかならんのか会議」の翌日に動き出したのです。
H代表は「出来れば遅くとも年内に回答が欲しい」と言ったので8日後の12月10日に、彼のオフィスで面談する事で別れました。

12月10日、その日は成田空港からホノルルマラソンへ出発する日でした。
本来は5泊7日の日程でホノルルに行く予定でしたが急遽、マラソン参加の翌日に帰国する事でこの話を早く進めようと思いました。
出発の6時間前に彼のオフィスで4項目提示の④以外は全てやると伝えました。
その時に分かった事ですが、第1次通過企業が提示した金額は明確には教えて貰えませんでしたが、OSG提示金額の約5倍以上と聞き、驚いたものです。

12月14日、ホノルルから帰国。夜12時前に帰宅したちょうどその時、顔馴染みの経済新聞社Y記者から「Aジャパン案件で聞きたい事がある」と電話が入りました。
Y記者は「Aジャパン社には日本を代表する商社がついていて現在、その商社は排ガス装置データ捏造事件に絡んでいる。この捏造事案とAジャパン社案件を絡めた記事を書きたい。そこで何かA案件について小さな事でもいいので問題があるのかを教えて欲しい」との事でした。
私は「捏造事件は知っているが、OSGは第1次審査NGなので何も分かりません」と言って電話を切りました。S氏と同様に、深夜の電話取材に貪欲な記者魂を見た気がしました。

18日土曜日にS氏から「昨夜、Aジャパン社の水宅配加盟店であったLPガス業者のLガス社に決まりました」と報告が入りました。

「Lガス社か・・・」そのLPガス会社は、OSGの過去の取引先企業でもある会社でした。

 

【追記】
S氏、Lガス社、A社、など、名前の頭文字をローマ字で表現していましたが次回からは読みやすくする為に仮名で掲載したいと思います。
今回まではS氏、Lガス社、H氏等と使用していますが、 S氏は「下川」、Lガス社は「ミカンガス社」、H氏は「小早川」、そしてA社は「アクアC社」と表現します。

(次回に続く)

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