代表取締役 湯川 剛

寒い冬に誰が水に関心があるのでしょうか。寒い冬にドアなど開けてくれません。開けてくれたとしても、浄水器とは何なのかまだ知名度がなかった時代ですので、話も聞いて貰えません。何百軒訪ねたとして、話を聞いて貰えるのはその内の数%の確率でしかありません。でも不思議とめげませんでした。悔しいとか悲しいとかツライとかは、当時も感じた事はありませんでした。ただ「厳しいなぁ」とは思っていましたが。

当時は5階建ての団地が多く、勿論エレベーターなど設置されていません。こういう場合は、まず5階まで上がってドアツードアをしながら4階、3階と降りていく訳です。1階から訪問していくと途中でつらくなって、結局は上まで上がらないからです。何時間も時間をかけても結局1軒もお話を聞いて貰えないという事はざらにありました。それでも1ヶ月に訪問が1000軒を超えると10軒は聞いてくれるお客様もいて、そのうち数台は購入して貰える訳です。「気の毒に…」と思って聞いてくれる人も中にはいて、良き時代でした。買ってくれたお客様の共通点は、環境に関心があるお客様か、それとも情けのある人でした(笑)。

とにかく歩きました。心に決めた事は1軒たりとも手を抜かない事でした。ある日、軒並み歩いたその先が、大きなお屋敷でした。裕福なお家の方が買って頂ける確率は高いと勝手に思っていましたが、気持ち的には大きな門構えに負けていてインターフォンを押すのをいつもためらっていました。

どうせ断わられるのなら留守の方がいい・・などと思いながら、そのお屋敷のインターフォンを押しました。ところが「どちら様でしょうか」の反応に驚いて、「浄水器の・・・」とモゴモゴとした小さな声で言ったところ、インターフォンの声が明るく「少々お待ち下さ〜い」との事で驚きました。お手伝いさんらしい人が出てきました。そして何と中に招き入れてくれたのです。「神様は時々こんなご褒美をくれるんだ」。毎日毎日手を抜かない、気を抜かない、そんな自分をやはり見ていて下さったのだと心で思いながら、こぼれるような笑顔でお手伝いさんの「どうぞ、こちらに」と導かれるままに、ついて行った訳です。

でもその後すぐに、それは浄水器と浄化槽の聞き間違いである事が分かりました。おそらくそこのお屋敷では浄化槽が詰まり、業者に電話してそのタイミングで私のインターフォンがあったのでしょう。その時「浄水器」と言っても、「それはナニ?」と言われる位に知名度が低い時代でした。

追い出されるように門に出ましたが、「そりゃそうだろ」と照れ笑いがあっても、腹の立つ事はありませんでした。神様、冗談はやめて下さい。

そのお屋敷は、今もあります。車でその横を通る度に、その時の場面がよみがえって苦笑いします。

さて話は2004年に飛びます。翌年(平成17年)に創立35周年を迎え、いろいろな記念事業を行なう計画を立てていました。しかしその前に何としてもやっておきたい事がありました。それは30年以上弊社の商品を使って頂いたお客様に対して、「感謝祭」をやりたいということです。平成16年9月28日、大阪帝国ホテルにご招待して、300名のお客様にご参加頂きました。お客様の中には親子3代で弊社の商品を4台も買い換えた方々もいました。私は300名のお客様の顔を見るなり、感謝の一言がまともに言えず、ただただ涙を流すばかりでした。お客様は楽しみに来られているのに、これでは「感謝祭」のパーティーにはなりません。私は司会者の方に早々にバトンタッチし、会場の後ろで楽しいビンゴゲームなどを見るのが精一杯でした。お客様、ありがとうございます。

(次回に続く)

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