代表取締役 湯川 剛

2001年も暮れようとしていました。年末の挨拶に私はT社を訪問しました。
工場や屋外作業現場向け工具・機器類の大手商社であるT社のN社長は二代目でありながら、創業者が大証二部に公開された企業を東証一部までにされた素晴らしい経営者です。私よりも10歳程若く、当時40歳を少し越えられた若々しい経営者でした。

そのN社長が
「この度は株式公開おめでとうございます。それはそうと、私が10年程前に湯川社長に大変失礼な事を言ったのを覚えておられますか。」と言われました。 「どのようなお話でしたか?私にはそんな記憶はありませんが・・・」と私は言葉を濁しました。正直、思い当たる節はありましたが、万が一、こちらが思っている事とN社長が思っている事が違っていたとしたらと思い、その場は曖昧に対応したのです。ところが、続くN社長の言葉を聞いて、「やはり、あの話か」と私は心の中でつぶやきました。

それは遡る事、7年前の1994年の話です。
過去にこの「人生はプラス思考で歩きましょう!!」でも既に書いた程、私の心に鮮明に残っている出来事で、勿論、その日の日記にも記してあります。(第154回参照) しかしそれはN社長が言っておられる「失礼な話」ではなく、私にとって大きくモチベーションアップとなった出来事でした。

第154回にも掲載されていますが、掻い摘んでお話しましょう。
当時47歳の私が大阪府経営合理化協会の二世塾の講師として呼ばれた時の出来事です。
30代半ばのN社長も当時、N専務としてその二世塾に参加されていました。
「リーダーは目標を掲げよ」というテーマで、私は自分の体験談を話しました。
創業3年目から中長期計画を立て、全社員さんと目標を共有。その事が社長である自分自身を鼓舞する為にも、目標を掲げる事が大事だという内容で、「現在も株式公開に向けて頑張っている」と具体例を示したのです。
その後、参加者との質疑応答があり、当時のN専務が発言されました。
「湯川社長は株式公開を目標に掲げているという事ですが、弊社も最近株式公開をしました。しかし並大抵な努力で出来るものではありません。大変失礼な言い方かもしれないですが、そんな簡単に成し遂げられる目標ではないと思います」
それは聞き様によって「その目標は大丈夫なの?出来ると思ってるの?」とも聞こえる発言で、つまり講師である私が、他の受講生達もいる中で話を真っ向から否定されたような格好になった訳です。
「達成できるか否かが問題なのではありません。リーダーは目標を掲げましょうというのが、本日のテーマです」と私は回答しました。しかし実現不可能な目標は全社員さんのやる気を喪失させる原因であったりもしますし、ましてや心身ともに疲弊させてしまう事にも成り得ます。
私にすれば、前の中長期計画が未達成だった事もあり、N専務の発言は私に少しの不安を感じさせる出来事でした。

ちなみにN専務の発言から2年後、T社は大証二部から東証一部に上場。N専務は社長として立派な企業を作られた訳です。
それにしても7年も経ちN社長が、その当時の事を覚えていた事に驚きました。
あの当時、T社との取引はありませんでした。しかしその後、弊社と取引した事で覚えていて下さったのかも知れません。
「やはりその話でしたか。しかしそれは決して失礼な話ではありませんよ。むしろあの時、私は何としても実現しなければならないと思いましたし、その思いを忘れまいとその日の日記にも書いたほどです。」そして私は7年前と同じ事を、その日もN社長に話しました。
「人間も会社も同じ事ですが、今その事が実力的に実現困難であったとしても、5年先・10年先も出来ないとは誰も断言出来ません。しかしN社長のあの時の言葉は、私に大きな勇気を与えてくれました。またその言葉を今尚、覚えていて下さっている事に恐縮します。」
そうして7年前のお礼と2001年の年末のご挨拶を終えました。

2001年の終わりに相応しいお話を頂いたなと、もうすぐ迎える新年に向けて新たな気持ちになりました。

(次回に続く)

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