代表取締役 湯川 剛

1998年1月5日。仕事始めです。
真新しい新社屋に関西圏の社員が一堂に介し、初出式に臨みました。初出式の会場である9階の会議場の床や壁の全てが輝いていました。それに同化するように社員さん達も心新たに、真新しい輝きを放ちながら、壇上に上った私の新年の挨拶を待っていました。
「新社屋での第一声に相応しい挨拶をしなければならない」そんな思いで私は声を発しました。
「新社屋が皆の力で出来ました。設計事務所の方に聞くと、隣のビルよりも10センチ以上高いとの事です。」

「自社ビルを建てるぞ!」と思い立ってから四半世紀を経ての実現。その間の社員さん方の努力や思いに対して、改めてお礼も述べました。続けて「自社ビルを建てたら3年でその会社は倒産する確率が高い」というジンクスを話し、その理由も説明しました。

ところが何と私は、次のような事を言ってしまいました。
「長年の夢で、新社屋を何としても完成させたいと思っていたのに、私は3日で飽きました。」
この一言で、全社員さんの表情は一様にポカンとした顔になりました。

「新社屋が完成しても緊張しろ」というならともかく「飽きた」いう発言は、その場の空気がガラリと変わったような気がしました。私も「何故、こんな事を言ってしまったのか」という気持ちにはなりましたが、後悔はなく正直な気持ちを披露したのです。
ビルが出来るまで時間があれば何度も工事現場に通い、工事用簡易エレベーターで屋上まで上っていた私でしたが引越し後、仕事始めを迎えるまでの3日間で、私は「10センチ高いビル」に何の魅力も感じなくなっていたのです。

あれ程、実現する事を心の糧にして日々努力してきたのに、この気持ちは何なのでしょう。
資金繰りやオーバーワークな程、体に鞭打って仕事をしてきたのだから、もう少し余韻を楽しむものがあればいいのに、私は全くその気持ちがなくなっていました。
射止めるまでが楽しい。実現するまでがワクワクする。と、他人はその気持ちを説明するのですが、それとも違うのです。私は登山の趣味はありませんが、登りきれないと思った山を登った事で達成感よりむしろやり切った後の虚脱感の方があったのでしょうか。

いずれにせよ、ピカピカの新社屋で迎えた仕事始めの日に、私は「3日で飽きた」と言ってしまったのです。そして次なる目標は「株式公開だ!」と勝利の余韻も感じさせないまま、次なる目標を改めて確認したのです。
しかしよくよく過去の生き方を振り返ってみると、決して不思議な事ではなかったと思います。
1つ目標を掲げ、それを達成したなら、即座に次の目標を掲げて突っ走っていく行動は、私の生き方そのものであり、今回の新社屋完成も例外ではなかったという事でした。

1月に入ると夜間大学のテストも開始され、昼間は東京ガス様・大阪ガス様のガスショップ廻りと日々の仕事に追われる事も新社屋の余韻に浸っている余裕がなかったのかも知れません。

いざ、株式公開に向かって闘うぞ!!

(次回に続く)

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